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福岡高等裁判所 昭和44年(ラ)113号 決定

抗告人 馬場実(仮名)

相手方 馬場豊(仮名) 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

原審判添付第一目録24の畑の地番(一、三九三番一」を「一、一九三番一)と更正する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

(一)  抗告人は、被相続人馬場均の相続人馬場ハツは遺留分減殺請求権を有せず、仮に有していたとしても、右請求権は時効により消滅したから、馬場ハツの相続人である相手方沼田進は本件遺産の分割を受ける権利を有しない旨主張するが、馬場ハツは本件相続に関して、遺留分減殺請求権を行使しているものではないから、右請求権を行使したことを前提とする抗告人の主張は採用することができない。

(二)  抗告人は、相続人馬場ハツは昭和三六年一月一日自己の相続分全部を抗告人に譲渡し、かつ将来被相続人馬場均の遺産については何らの請求をしないことを約諾していたから、ハツの相続人である沼田進は本件遺産の分割を受けることができない旨主張し、記録によると、馬場ハツ作成名義をもつて右主張の日抗告人にあてて、「遺留分の権利は一切抗告人に譲渡する。」旨記載した念書が存在するが、原審における馬場ハツ審問の結果に徴し、右念書が、馬場ハツによつて作成されたものであるか否かは明らかでなく、仮に同人においてこれを作成したものであるとしても、右念書の記載から同人が自己の相続分を抗告人に譲渡する趣旨に解することは困難であり、右主張に副う原審における抗告人審問の結果はにわかに措置し難く、他にこれを認めしめるに足る資料がないので、右主張は採用するに由ないものである。

(三)  抗告人は、相続人馬場明は自己の相続分を他の共同相続人である馬場ハツまたは相手方沼田進のために放棄したものではない旨主張するが、右事実を認めしめるに足る資料は存在しないので、抗告人の右主張は採用することができない。

(四)  抗告人は、原審判添付第一目録記載の不動産(ただし19及び20の物件を除く。)は抗告人が被相続人馬場均から贈与を受けたものであり、遺産ではない旨主張するが、これを認めしめるに足る資料は存在せず、却つて原審における抗告人審問の結果によると、右不動産は抗告人において贈与を受けたものではなく、被相続人馬場均の遺産であることが認められるので、右主張は採用するに由ないものである。

二  当裁判所も本件遺産分割の原審判は相当と考えるが、その理由は次に訂正、削除するほか、原審判の理由第三記載と同一であるから、これをここに引用する。

(一)  原審判三枚目表七行目から同枚目裏五行目までを削除し、同部分を次のとおり改める。

「二、佐賀家庭裁判所唐津支部の検認を経た均作成名義の遺言書によると、「私が全財産を三男浩へ譲渡す家出人相ぞく無浩渡ス」旨の記載があるけれども、日付としては昭和三五年八月とあるだけで日の記載を欠いており、この点において右遺言書は自筆証書遺言の要件を欠き有効な遺言とみることはできないので、被相続人均が遺産全部を抗告人浩に遺贈したものとみることはできない。しかしながら、均が作成したと認むべき右遺言書の記載、原審における抗告人、相手方馬場篤及び馬場明審問の結果、原審鑑定人住友順一、西山三郎の鑑定の結果並びに記録添付の戸籍謄本、登記簿謄本を総合すると、被相続人馬場均(明治一八年生れ)は、本籍地において農業を経営してきたものであるが、昭和三三年から昭和三五年二月二九日までの間数回にわたりその三男である抗告人に対し原審判添付第二目録記載の田、山林、原野、宅地及び居住家屋(以下、本件第二物件と称す。右物件の相続開始時における評価額は金三九三万七、〇五〇円)を贈与したこと、本件第二物件は金額にして均の所有していた不動産の約三分の二に相当し、抗告人の法定相続分をはるかにこえるものであること、均の長男であつた相手方篤は、当時均とは独立し肩書住所に居住して瓦製造業を営んでいたこと、同人の二男である明もまた均とは独立して別居し、当時郵便局に勤務して農業には従事していなかつたこと、抗告人は当時均及びその妻馬場ハツと同居して農耕に従事していたものであることを認めることができ、右事実によれば、均は自己の営んできた農業を抗告人に継がせる意思であつたことを推認することができる。しかして、これら認定事実によれば、被相続人均は本件第二物件を抗告人に贈与するに際し、これらの特別受益の持戻免除の意思を表示していたものと認めるのが相当である。」

(二)  原審判九枚目裏七行目「一、三九三審一」を「一、一九三番一」と、同一〇枚目表六行目「屋形石甲」を「屋形石乙」と、同一三枚目裏二行目「一、三三八番ロ」を一、一三八番ロ」と訂正する。

よつて原審判は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、なお原審判添付第一目録24の畑の地審「一、三九三審一」とあるのは明白な誤謬であるからこれを「一、一九三番一」と更正すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 江崎彌 裁判官 松村利智 白川芳澄)

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